労使協定(労働者派遣法第30条の4第1項)のよくある違反事項と注意点
年度末が近づき、多くの労働者派遣事業者の皆様にとって、派遣労働者の同一労働同一賃金に関する労使協定の締結時期となりました。
毎年8月頃に翌年4月1日以降に適用される「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」いわゆる一般賃金が公表され、年明け1月下旬から2月頃に「労使協定のイメージ」最新版が公表される流れが定着して数年が経ちます。
令和8年度分も昨年8月25日に「一般賃金」の公表、今年1月28日に「労使協定のイメージ」が公表されており、いずれも大きな制度上の変更点はありませんでしたので、例年通りに労使協定の作成・締結と進めて頂ければ問題ないところではあります。
しかし、形式上は整っているように見えても、ちょっとした記載漏れや不備が「違反」と判断されてしまうことも多々あります。そこで今回のコラムでは、労働者派遣法第30条の4第1項の規定に基づく労使協定について、よくある違反事項と実務上の注意点について取り上げてみたいと思います。
1.労働者派遣法第30条の4第1項の規定に基づく労使協定とは
今回も改めて簡単に、おさらいをします。令和2年4月1日施行の改正労働者派遣法では、派遣労働者にも「同一労働同一賃金」により不合理な待遇差の是正が求められることとなりました。
この派遣労働者の同一労働同一賃金を実現する方法として、「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」のいずれかの方式により派遣労働者の待遇を確保することが義務付けられました。そして2つの方式のうち、「労使協定方式」を選択した場合、使用者と労働者過半数代表者等とが締結した「労使協定」によりその待遇が決定されます。その「労使協定」こそが「労働者派遣法第30条の4第1項の規定に基づく労使協定」となります。
また、最近では指摘される件数が減少していると聞いていますが、36協定との混同にもご注意ください。36協定も「労使協定」のひとつであることは間違いありませんが、こちらは時間外労働・休日労働を行う場合に締結するもので、「労働者派遣法第30条の4第1項の規定に基づく労使協定」とは全く別物です。
2.労使協定のイメージ最新版の公表
今年も令和8年度適用版として、労使協定のイメージ最新版が1月に公表されました。
今年も昨年同様、制度上において、内容に大きな変更点はありませんでしたので、基本的には前年分をベースに作成するケースが多いかと思います。しかし、そうすることで次の項目で取り上げる違反事項に該当していることを見逃してしまうこともありますので、十分注意して作成することが必要です。
3.労使協定のよくある違反事項と注意点
(1)通達名の更新忘れ、過去の通達の職種別基準値や地域指数を使用
労使協定書の条文に記載している通達番号や発出年月日は修正しているものの、別表に記載している職種別基準値や地域指数の修正をしていないケースがあります。
単純なミスですが、意外とあります。次のように改善します。
※改善方法※
労使協定イメージ2ページ第3条(一)、通達新年度適用の職種別賃金や地域指数を正しく転記することが必要です。
(2)地域指数の選択が実態と異なる
地域指数の取扱いに関して、次のような違反事項があります。
・派遣元事業所の所在地の都道府県指数またはハローワーク指数を選択している。
・主な就業地のみ記載している。
・年度途中で新たな派遣先が増えたが、労使協定を再締結せず、新たな地域に対応した比較がなされていない。
※改善方法※
派遣先の事業所、その他派遣就業の場所の所在地を含む都道府県またはハローワーク別の地域指数を選択して、労使協定に記載することが必要です。
また、複数の地域で就業する場合については、複数の地域ごとに地域指数を乗じて比較する方法と、最も高い地域指数を乗じて比較する方法があります。
【地域指数を使い分ける場合の記載例】
(二)地域調整については、埼玉県、千葉県、東京都の派遣先で派遣就業を行うことから、通達別添3に定める埼玉、千葉、東京の指数を使用するものとする。ただし、東京都、千葉県は複数の市区町村の派遣先において就業を行うことから、都道府県別の指数を使用し、埼玉県は主に○○市内の派遣先において就業を行うことから、ハローワーク○○の指数を使用するものとする。
【複数の地域指数のうち、最も高い指数を使って比較する場合の記載例】
(二)地域調整については、派遣先が埼玉県、千葉県、東京都の各市町村が想定されることから、通達別添3に定める都道府県指数のうち、最も高い東京の指数を使用するものとする。
(3)協定対象派遣労働者の職務の内容の記載不備や算定方法の誤り
対象従業員の基本給、賞与及び手当の額を記載した別表に関して、次のような違反事項が見られます。
・職務の内容が上級、中級、初級のみの記載となっており、具体的に記載されていない。
・基本給に固定残業代を含み、算定している。
・備考欄の算定方法が「労使協定イメージ」の記載例のままになっており、自社の賞与額の算定方法と異なってしまっている。
・協定対象者の賞与・手当等の算定方法が記載されていない、または実態と乖離している。
※改善方法※
職務の内容は具体的に記載することが必要です。
基本給は、月給÷1年間における月平均所定労働時間で算出して記載します。
賞与、手当等は、「個々の協定対象派遣労働者に実際支給される額」のほか、「直近事業年度で協定対象派遣労働者に支給された額の平均額」、「協定対象派遣労働者に支給される見込み額の平均額」、「標準的な協定対象派遣労働者に支給される額」等を労使で選択することも可能です。
また手当は、例えば家族手当や資格手当など、全員に支払われる手当でなくても、手当額に含めることが可能です。
固定残業代については、基本的には協定対象派遣労働者の賃金に含めることは適当ではありませんが、直近の事業年度において実際の時間外・休日労働および深夜労働分に係る手当を超えて支払われたものについては含めることができるとされています。

(4)労使協定の周知がなされていない
労使協定を締結した派遣元事業主は、労使協定をその雇用する労働者に周知しなければなりませんが、次のような場合、周知がなされていないと判断されます。
・派遣に関する労使協定であることを理由に、派遣労働者のみの周知にとどまっている。
・事業所への備え付けのみをしていて、全労働者に概要版を文書等による周知を行っていない。
・社内のイントラネットに掲載をしているが、社外にいる派遣労働者はアクセスできず、常時確認することができない。
・ホームページやイントラネットに掲載しているが、掲載したことを労働者に周知していない。
派遣労働者に限らず、派遣元事業主に雇用されるすべての労働者に周知する必要があるので、上記の場合は派遣法違反となります。
※改善方法※
全労働者に対して、次の3つのいずれかの方法で周知します。
①書面の交付
②次のいずれかによることを労働者が希望した場合
・ファクシミリを利用しての送信
・電子メール等の送信
③イントラネット等で常時確認できるようにする
④常時、派遣元事業主の各事業所の見やすい場所に掲示し、または備え付ける(ただし、労使協定の概要について、①または②の方法により併せて周知する場合に限ります)
なお、労使協定の概要とは、少なくとも労使協定の対象となる派遣労働者の範囲、派遣労働者の賃金(基本給、賞与、通勤手当、退職手当等)の決定方法および有効期間を盛り込み、容易に理解できるようにすることが望ましいとされています。
4.まとめ
今回は、新年度を迎えるにあたり新たな労使協定の締結時期が迫るなか、よくある違反事項とその対策、改善方法について取り上げました。
労使協定方式は、派遣先均等・均衡方式と比べると、派遣先との調整においては派遣元の負担が少ないといえます。
しかし、その一方で、派遣労働者の公正な待遇を確保するために、労使協定は形式状の整備にとどまることなく、法令や通達の趣旨に沿って確実に運用することが必要で、派遣元における責任は重いものとなっています。
法改正や通達の変更も比較的多く行われる分野でもありますので、常に最新情報を取り入れながら、必要に応じて社会保険労務士等の専門家へのご相談もお勧めいたします。

