令和9年度適用の一般賃金が公表されました!
8月の終わりごろになると毎年、「そろそろ出そうですね?」という声が派遣会社の担当者の方から聞かれ始めます。8月に出るもの。個人的には「お化け」が一番出そうですが、この場合はそうではありません。
毎年この時期に公表される「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」、いわゆる「一般賃金」です。今年も令和9年度適用分が、8月28日厚生労働省のサイトに掲載された局長通達により公表されました。
例年8月下旬頃に公表されるこの一般賃金は、労働者派遣を行ううえで非常に重要な金額や指数となるものです。そこで、今年もこのコラムでは、令和8年度適用分との変更点を中心に速報版として取り上げてみたいと思います。
1.派遣労働者の同一労働同一賃金
まずは今年も派遣労働者の「同一労働同一賃金」について少しおさらいをしてみたいと思います。
2020年4月から施行された改正労働者派遣法により、派遣労働者の「同一労働同一賃金」により不合理な待遇差の是正が求められることとなりました。
この派遣労働者の同一労働同一賃金に関しては、派遣元事業主に対し「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」のいずれかの方式により派遣労働者の待遇を確保することが義務付けられています。
そして2つの方式のうち、労使協定方式により派遣労働者の賃金等の待遇を決定するとした場合には、「一般労働者の賃金(一般賃金)額と同等以上」という要件があり、統計調査による一般賃金額が局長通達により毎年公表されていますので、派遣元はこれを遵守する必要があります。
また、派遣先は、労働者派遣に関する料金の額について、派遣元事業主が法令遵守できるように配慮することが求められています。

それでは早速、次の章から令和9年度適用分の一般賃金水準の状況をみていくことにします。
2.令和9年度一般賃金水準(一般基本給・賞与等)の状況
職種別の一般賃金水準は、原則として次の2つの統計を活用した一般賃金水準を使用するものとされています。
①職業安定業務統計(令和7年度におけるハローワーク求人データを基に算定)
②賃金構造基本統計調査(令和5・6・7年における統計値を基に算定)
実務上は①職業安定業務統計の一般賃金水準を選択しているケースが多く見受けられます。これは、②に比べて、職種区分が細かく分かれており、派遣先で実際に従事する業務内容にフィットしやすいためではないかと考えられます。
なお、一定の要件を満たした独自統計等を用いる選択肢もありますが、使用例が少ないため今年もこのコラムでは割愛します。
(1)令和9年度に適用される一般賃金水準
①職業安定業務統計を活用した一般賃金水準
全体(職業計)で見ると、昨年度より44円上昇の1,333円(前年度1,289円)。
職種別では、前年度より上がる職種が532職種(前年度525職種)、下がる職種が8職種(前年度13職種)でした。
労働者派遣が多く行われる職種をいくつか中分類でピックアップします。
009情報処理・通信技術者(ソフトウェア開発):1,514円(昨年比+44円)
034一般事務・秘書・受付の職業:1,175円(+46円)
045販売員:1,277円(+56円)
050施設介護の職業:1,223円(+43円)
067生産設備オペレーター(金属製品):1,220円(+38円)
070機械組立設備オペレーター:1,211円(+33円)
076製品検査工(金属製品):1,200円(+47円)
095荷役・運搬作業員:1,252円(+39円)
098選別・ピッキング作業員:1,226円(+39円)
労働者派遣に関連する職種では、今年もほぼ軒並み上昇しています。特に、販売など人手不足が深刻化している職種は平均よりも高い上昇値となっている印象です。
②賃金構造基本統計調査を活用した一般賃金水準
全体(産業計)で見ると、昨年度より88円上昇の1,530円(前年度1,442円)。
職種別では、前年度より上がる職種が112職種(前年度117職種)、下がる職種が13職種(前年度7職種)でした。
同じく、労働者派遣が多く行われる職種をいくつかピックアップします。
1104ソフトウェア作成者:1,706円(昨年比+36円)
1169その他の社会福祉専門職業従事者:1,316円(+26円)
1257総合事務員:1,569円(+108円)
1321販売店員:1,270円(+94円)
1361介護職員(医療・福祉施設等):1,236円(+72円)
1493金属工作機械作業従事者:1,186円(+67円)
1508ゴム・プラスチック製品製造従事者:1,169円(+83円)
1513自動車組立従事者:1,429円(+95円)
1561製品検査従事者(金属製品):1,308円(+130円)
こちらも軒並み上昇しており、職業安定業務統計と同様に販売店員、介護職員などで高い上昇値を示しています。また、職種によって上昇幅の違いが大きく出る結果となっていますが、これは昨年も見られた傾向です。

(2)一般賃金水準に用いる各指数等の更新
①賞与指数
「賞与指数」とは、職業安定業務統計の求人賃金に賞与が含まれていないので、これを加味するために、賃金構造基本統計調査の「勤続0年」の特別給与により算出した指数です。
令和9年度通達の数値は「0.02」となり、令和8年度通達から変更なしとなりました。
②能力・経験調整指数
「能力・経験調整指数」とは、勤続0年を100として、能力と経験を年数別に算出した指数です。賃金構造基本統計調査の特別集計により算出した、勤続年数別の給与(産業計)に賞与を加味した金額により算出した指数です。令和9年度は次の表のとおりとなりました。

ただし、現在の勤務年数をそのまま適用するのではなく、実際の業務内容やスキルが何年目に該当するのかを個別に判断して決定されることになります。
③学歴計初任給との調整
賃金構造基本統計調査の「勤続0年」の数値には中途採用者が含まれていることを踏まえて、その影響を調整するために、賃金構造基本統計調査の学歴計の初任給との差を控除するために算出した数値です。令和9年度通達では次の数値となりました。

④一般通勤手当
「一般通勤手当」とは、同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額のうち、通勤手当に係る額を指します。令和9年度通達では次の数値となりました。

過去にない大幅な上昇値となった前回(令和7年度:73円⇒令和8年度:79円)から一転して大幅な金額低下となりました。
これは、一般通勤手当を算出する際に用いる資料が変更になったことが理由の一つと考えられます。具体的には、令和8年度通達では、「平成25年企業の諸手当等の人事処遇制度に関する調査」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)を用いて算出していたところ、令和9年度通達では「令和7年就業条件総合調査」(厚生労働省)を用いて算出する方法に変更になりました。
さて、今回の令和9年度通達により一般通勤手当が大幅に低下したことで、これを理由として、労使協定に定める協定対象派遣労働者の通勤手当の額を引き下げることとしてもよいかという問題が生じます。実は、この点に関して厚生労働省より、すでにQ&Aが出ており、下記回答がなされております。
(回答)
一般通勤手当の額が下がった場合であっても、見直し前の労使協定に定める通勤手当の額を基礎として、協定対象派遣労働者の公正な待遇の確保について労使で十分に協議した上で決定すること。
また、労使で十分に協議を行ったとしても、実際に協定対象派遣労働者の通勤手当の額を引き下げる場合には、労働条件の不利益変更となり得るものであり、労働条件の不利益変更については、労働契約法第9条に基づき、原則として労使双方の合意が必要であることに留意する必要がある。
(「令和9年度一般賃金通達の見直しに関するQ&A」より)
なお、協定対象派遣労働者に対して、通勤手当として派遣就業場所と居住地の通勤距離や通勤方法に応じた実費が支給されている場合には、一般通勤手当「67円」と同等以上であるものとされます。ただし、上限のある実費支給の場合で、通勤手当の額が実費に満たない協定対象派遣労働者がおり、その上限額を協定対象派遣労働者の平均的な所定内労働時間1時間あたりに換算した額が「67円」未満である場合には、その額を「67円」とする必要があります。
(例)週40時間労働の一般的正規社員
1か月の所定労働時間⇒(週40時間×365日÷7日)÷12か月=173.8時間
173.8時間×67円=11644.6円
上限額を設定している場合は、確認が必要です。
⑤退職手当に関する調査
退職手当制度を設けている場合、退職手当制度がある企業の割合、受給に必要な所要年数、支給月数および支給金額を示した通達の別添資料の中から、いずれかを選択して自社の退職金制度と比較する必要があります。
令和9年度通達では、以下の1調査が更新されましたので確認が必要です。
・賃金事情等総合調査(中央労働委員会)
また、以下の1調査が削除されました。
・退職金・年金に関する実態調査結果(日本経済団体連合会)
⑥退職金割合
「退職金割合」とは、同種の業務に従事する一般労働者の平均的な額のうち、退職手当(退職金前払いの方法、中小企業退職金共済制度等への加入の方法の場合)に係る額を指します。
令和9年度通達の数値は「5%」で、令和8年度通達から変更なしとなりました。
3.「職業安定統計を活用した一般賃金水準」への参考値の追加
職業安定業務統計から算出した一般賃金について、「求人賃金の上限額の平均」が今回から参考値として追加されています。
これは、「上限値を示して、それをベースに派遣元で処遇改善の方向で協議が行われるというような工夫もできるのではないか」という厚生労働省労働政策審議会の同一労働同一賃金部会における意見を受けて、協定対象派遣労働者の賃金水準の改善に向けた労使協議が円滑に実施されることを目的に追加されました。
4.協定対象派遣労働者の待遇改善を進めるに当たって留意すべき事項
令和8年度通達では、例えば、「一般賃金の額が下がった場合であっても、見直し前の労使協定に定める賃金の額を基礎として、公正な待遇の確保について労使で十分に協議することが望まれるものである」といったように、協定対象派遣労働者の賃金額についての留意事項が記載されていました。
一方、今年の通達では、これらを「協定対象派遣労働者の待遇改善を進めるに当たって留意すべき事項」という項目で独立させ、整理して記載されています。
これは、令和8年10月1日改正の派遣元指針とも関連する重要な部分となりますので、下記に抜粋します。
【協定対象派遣労働者の待遇改善を進めるに当たって留意すべき事項】
派遣元事業主は、協定対象派遣労働者の待遇の改善を進める観点から、法第30条の4第1項第2号の賃金の決定方法を労使協定で定めるに当たっては、以下の事項に留意すること。
①一般賃金の額を遵守した上で、経済・物価動向及び賃金動向を勘案して労使協定に定める賃金の額を決定することについて労使で十分に協議することが考えられること。
②一般賃金の額が下がった場合であっても、従前の労使協定に定める賃金の額を基礎として、公正な待遇の確保について労使で十分に協議することが望ましいこと。
③労使で十分に協議を行ったとしても、待遇を引き下げる場合、労働条件の不利益変更となり得るものであり、労働条件の不利益変更には、労働契約法第9条に基づき、原則として労使双方の合意が必要であること。
なお、派遣元指針第2の8(7)ロ及びハ(令和8年10月1日以降)において、派遣元事業主は、労働者派遣に関する料金の額(以下「派遣料金」という。)に係る派遣先との交渉が派遣労働者の待遇の改善にとって極めて重要であることを踏まえつつ派遣料金交渉に当たるとともに、派遣料金が引き上げられた場合には、可能な限り、当該労働者派遣に係る派遣労働者の賃金を引き上げるよう努めることと定めていることについて留意すること。
また、賃金を引き下げることを目的に、使用する統計等の変更及び使い分けを行うことは、法の趣旨に反するものとして認められない。
(令和8年8月28日付け局長通達本文より抜粋)
5.まとめ
今回のコラムでは、公表されたばかりの令和9年度適用の一般賃金について、変更点を中心に取り上げました。
一般賃金の公表は、単に新しい賃金額を確認するだけの作業のためではありません。労使協定方式を採用している派遣元事業主の皆様にとっては、翌年度の賃金設計、派遣料金の見直し(料金交渉)、労使協定の締結の準備を始める重要なスタートラインとなります。
「まだ、先の事。時間はたっぷりある。」と後回しにせず、一般賃金が公表されたこの時期から準備を始めることで、派遣先との料金交渉・調整から労使協定の締結まで余裕を持って進めることができます。
毎年繰り返されるものではありますが、だからこそ「今年も同じ」で済ませることなく、公表内容の変更点を細かく確認し対応することで、派遣労働者の適切な待遇の確保とコンプライアンスの遵守、企業の信頼アップに繋がりますので、ぜひ早めのご準備をお願いします。
※本コラム記載の金額・指数等につきましては、念のため、厚生労働省サイトに掲載されている金額・指数等をご確認下さい。
厚生労働省『派遣労働者の同一労働同一賃金について』
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00001.html
