派遣元事業主が確認しておきたい、同一労働同一賃金改正への実務対応
前回のコラムでは、令和8年10月1日改正施行の派遣労働者の同一労働同一賃金について、改正の全体像とその背景、待遇に関する説明義務の改善、均等・均衡待遇に関するポイントなどをまとめました。
しかし、当然の事ではありますが、制度の内容を知り、理解しただけでは意味がありません。実際に、書類や賃金制度、派遣労働者の説明方法などが適切に運用されているかを確認することが重要です。
そこで、今回のコラムでは、派遣元事業主の実務に焦点を当て、改正を踏まえて確認しておきたいポイントをまとめてみたいと思います。
1.雇入れ時・派遣時の説明事項と書類の見直し
今回の改正では、派遣労働者の雇入れ時や派遣時に、明示すべき事項が追加されました。
具体的には、派遣労働者が待遇の相違の内容や理由などについて、派遣元に説明を求めることができる旨を明示することが必要となりました。
前回のコラムでも掲載しましたが、待遇決定方式の別により、次のような記載が追加で必要となります。
対象となる書類は、「雇入れ時の待遇情報明示書」と「派遣時の待遇情報明示書」です。
<実務対応のポイント>
派遣労働者が円滑に説明を求めることができるよう、申出先を明示することが必要です。
申出先を明示するにあたっては、「部署」「役職」「氏名」について、派遣労働者が申出先を特定できるように記載します。
また、連絡先については、その部署または担当者の電話番号やメールアドレスを記載することが考えられます。
そして、ここで注意したいことは、書類の様式を改めるだけで対応を終了してしまわないことです。
例えば、書類の様式に必要な記載が追加されていたとしても、実際に担当者が説明を求められた際に適切な回答ができなければ、実務上の問題が生じる可能性があります。
書類の修正を行うと同時に、担当者が説明する際に使用する資料を作成し、すぐに確認できる体制を整えておくことが必要です。
2.派遣労働者の待遇に関する説明時の留意事項
(1)求めがあった場合の説明方法
求めがあった場合の説明方法は、これまでの「資料を活用し、口頭により説明することを基本」とする方法を見直し、次のいずれかによるものに改正されました。
①資料を活用し、口頭により説明する方法
②説明すべき事項を全て記載した派遣労働者が容易に理解できる内容の資料を交付する等の方法
なお、①による場合には、説明に活用した資料等を交付することが望ましいとされています。
また、労働者の個人情報等の漏洩を防止する等の観点からその資料を交付することが困難な場合であっても、派遣労働者から事後に求めがあったときは、その資料を閲覧させる等の工夫に努める必要があります。
(2)求めがあった場合の説明事項(派遣先均等・均衡方式)
派遣先均等・均衡方式において、派遣労働者から待遇に関する説明を求められた場合の説明内容は、次のとおりとなります。
①派遣労働者及び比較対象労働者の待遇のそれぞれを決定するに当たって考慮した事項 の相違の有無
②「派遣労働者及び比較対象労働者の待遇の個別具体的な内容」または「派遣労働者及び比
較対象労働者の待遇の実施基準」
③派遣労働者及び比較対象労働者の職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲その他の事
情のうち、待遇の性質及び待遇を行う目的に照らして適切と認められるものに基づき、派遣労働者と比較対象労働者の待遇の相違の理由
④賃金の決定に当たって勘案する職務の内容、職務の成果、意欲、能力、経験等のうちどれを勘案しているか、どのように勘案しているか
(3)求めがあった場合の説明事項(労使協定方式)
労使協定方式において、派遣労働者から待遇に関する説明を求められた場合の説明内容は、次のとおりとなります。
①協定対象派遣労働者の賃金が労使協定で定められた事項及び労使協定の定めによる公正
な評価に基づき決定されていること。また、労使協定に定められた待遇の決定方法をどの
ように適用したか
②協定対象派遣労働者の待遇(賃金、教育訓練及び福利厚生施設を除く。)が派遣元事業主に雇用される通常の労働者(派遣労働者を除く。)との間で不合理な相違がなく決定されていること
③教育訓練及び福利厚生施設について、派遣労働者と派遣先に雇用される通常の労働者との間で均等・均衡が確保されていること
(4)求めがない場合の望ましい対応(両方式共通)
派遣労働者から待遇の相違の内容・理由等について説明の求めがない場合であっても、労働契約の更新時等に、通常の労働者との間の待遇の相違の内容・理由等について容易に理解できる内容の資料を交付することや、説明を求めることができることを周知するといった対応を行うことが望ましいとされています。
3.派遣労働者の待遇の点検と検討
(1)同一労働同一賃金ガイドラインの改正
今回の改正では、派遣労働者の均等・均衡待遇に係る見直しとして、「同一労働同一賃金ガイドライン」の改正が行われました。
「同一労働同一賃金ガイドライン」は、通常の労働者と派遣労働者との間で、どのような待遇差が不合理と認められるか等、考え方や具体例を示しているものですが、裁判例等を踏まえ、次の内容が追加されました。
①賞与・退職手当
②無事故手当
③家族手当
④住宅手当
⑤福利厚生施設
⑥病気休職・休暇
⑦夏季冬季休暇
⑧褒賞
※各手当の内容の詳細については、前回のコラムに記載しましたのでここでは割愛します。
「派遣先均等・均衡方式」の場合は①~⑧の全てが対象となります。
また、「労使協定方式」の場合でも、⑤~⑧は対象となりますので注意が必要です。
(2)派遣労働者の均等・均衡待遇の考え方
まず、派遣労働者と比較対象労働者が均等待遇の対象となるか、均衡待遇の対象となるかを確認します。
その結果、均等待遇の対象となる場合は、全ての待遇について同じ取扱いにします。
一方、均衡待遇の対象となる場合は、待遇の性質・目的に照らして、「職務の内容」「職務の内容・配置の変更の範囲」「その他の事情」を考慮して、均衡待遇を確保することになります。
なお、ここでの「職務内容」とは、「業務の内容」と「責任の程度」のことをいいます。
また、「職務の内容・配置の変更の範囲」とは、「人材活用の仕組みや運用等」のことで、具体的には、転勤の有無、職種の変更、昇進などのことをいいます。
(3)派遣労働者の均衡待遇の点検・検討の手順
派遣労働者の均衡待遇の点検・検討の手順について、「慶弔休暇」を例にみていくことにします。自社において、実際にどのように規定され、運用されているかを次のように整理し、点検・検討し、結論を導くことになります。
<派遣労働者の均衡待遇の点検・検討>
均衡待遇の点検は以下の手順で行います。
【事例】慶弔休暇
①派遣労働者と、比較対象の労働者の待遇の適用有無の違いを整理します
・比較対象の労働者:適用あり
・派遣労働者 :適用なし
「適用有無の違い」⇒異なる
②派遣労働者と、比較対象の労働者の待遇の決定基準の違いを整理します
「決定基準の違い」⇒異なる
③待遇の性質・目的を整理します
「待遇の性質・目的」⇒仕事から離れて慶弔行事に参加するため
④どのような違いを設けているかを確認します
・比較対象の労働者⇒慶弔行事に応じて付与
・派遣労働者 ⇒付与していない
⑤違いを設けている理由を確認します
「違いを設けている理由」⇒業務の内容が異なるため
⑥待遇差が不合理か否かを判断するにあたってどのような考慮要素(※)があるかを確認します(※考慮要素:職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲、その他の事情)
「待遇に関する考慮要素」⇒職務の内容等のいずれにも、慶弔休暇の付与の有無に影響を及ぼす事情はない。
⑦違いを設けている理由(⑤)が、待遇の性質・目的(③)に照らして、職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して合理的かどうか確認します
「違いを設けている理由が合理的か否か」⇒慶弔行事に参加するために労働から離れる機会を与える趣旨は、業務の内容が異なることにより変わるものではないため、違いを設けている理由は合理的とはいえない。
【結論】見直しが必要
<実務対応のポイント>
対応のポイントは、待遇差を設けている理由を単に「派遣労働者だから」といった、主観的・抽象的な理由とすることは認められないというところにあります。
また、「通常の労働者としての職務を遂行しうる人材の確保及びその定着を図る」(いわゆる「正社員人材確保論」)等の目的があったとしても、待遇差が不合理と認められるか否かは、その待遇の他の性質・目的にも照らして判断されるものです。したがって、その目的があることのみによって直ちに、その待遇の相違が不合理ではないと当然に認められるものではありません。
4.派遣先との連携と待遇改善の仕組みの整備
今回の改正では、派遣労働者の公正な評価による待遇改善の促進も重要なポイントとなっています。
派遣元においては、派遣労働者が能力を高め、職務上の成果を上げた場合、その成長と成果が適切に評価され、待遇の改善につながる仕組みを整えることが求められます。
そのためには、派遣元は派遣先とも連携しながら、派遣労働者の業務の遂行状況等を把握し、適切な時期に職務の内容・成果、能力等を評価し、本人の希望に応じた評価結果のフィードバックを行うことが重要です。
また、キャリアコンサルティングや教育訓練を実施し、今後の能力開発やキャリア形成について相談できる機会を設けることも有効です。

5.まとめ
令和8年10月1日の改正に対応するためには、明示書類の見直しに加え、待遇決定の仕組みや説明体制、派遣労働者の評価・教育訓練の運用体制などを総合的に構築、点検することが必要です。
また、労使協定や各種書類を整備していても、実際の運用がその内容と一致していなければ、適切な対応とはいえません。今回の改正を一度限りの書類修正で終わらせるのではなく、自社の労務管理を見直す契機として活用してはいかがでしょうか?
派遣労働者の公正な待遇を確保するためには、制度を理解することに加え、日々の業務の中で適切に運用し、必要に応じて改善を続けていく姿勢が大切です。
