組織再編に伴う労働者派遣事業許可の取扱い
○組織再編
組織再編とは、企業が事業の拡大や競争力の強化、資金力の増強などの目的のために、文字どおり会社組織を再編するものです。会社法では第5編において、組織再編の種類として、「合併」「会社分割」「株式移転」「株式交換」「株式交付」の5つが規定されています。そこで今回は、特に注意が必要な「合併」と「会社分割」の際の労働者派遣事業許可の取扱いについて取り上げてみたいと思います。
○合併と会社分割
合併とは、2つ以上の会社が統合して1つの会社になることをいいますが、合併後に事業を行う会社が、既存の会社であるか、新たに設立した会社であるかの違いにより、さらに「吸収合併」と「新設合併」に分けられます。
会社分割とは、1つまたは2つ以上の会社が、その事業に関して有する権利・義務の全部または一部を他の会社に承継させることをいいます。その方法により「吸収分割」と「新設分割」の2種類に分けられます。
(1)吸収合併
吸収合併とは、一方の会社が他方の会社の権利や義務のすべてを承継し、承継した会社は消滅する合併のことです。
例えば、既存の法人であるA社とB社が吸収合併し、B社を存続会社、A社を消滅会社とすると、B社がA社の権利・義務の一切を承継し、B社は引き続き存続、A社は消滅する(解散する)ことになります。
このときに、消滅する法人(以下「消滅法人」といいます)が労働者派遣事業の許可を持っており、その消滅法人の事業所において、合併後存続する法人(以下「存続法人」といいます)が、引き続き労働者派遣事業を行う場合等には、次の手続きを行う必要があります。
①合併前に存続法人が労働者派遣事業の許可を受けておらず、かつ、消滅法人が許可を受けている場合で、合併後に存続法人が労働者派遣事業を行う場合
存続法人は、新規で労働者派遣事業の許可を申請する必要があります。その際、労働者派遣事業の許可の期間に空白が生じることを避けるために、合併の日付と同日付で許可を受けることが可能となるようにしなければなりません。そのために、合併を議決した株主総会議事録等、合併が確実に行われることを確認できる書類を添付して、存続会社において事前に許可申請を行う必要があります。
②合併前に存続法人が許可を受けている場合で、合併後に存続法人が労働者派遣事業を行う場合
新規で許可申請を行う必要はありません。ただし、合併に際して法人の名称等が変わったりした場合は変更届出を、事業所の新設を行う場合はその届出を行ってください。
③上記②の場合において、存続法人および消滅法人がともに合併前に許可を受けており、かつこの消滅法人の事業所において、合併後に存続法人が引き続き労働者派遣事業を行う場合の特例
合併後の存続会社の事業所数が、合併前の存続会社および消滅会社の事業所数を合算した数以下であるときは、特例として許可基準の資産要件(純資産2,000万円×事業所数)にかかわらず、事業所の新設をすることができます。
例えば、次のケースにおいて
A株式会社(派遣許可あり) 合併前の事業所数⇒1
B株式会社(派遣許可あり) 合併前の事業所数⇒3
A株式会社がB株式会社を吸収合併した場合、存続会社であるA株式会社は許可基準の資産要件にかかわらず、4事業所まで新設することができます。
(既存1事業所+新設3事業所)
(2)新設合併
新設合併とは、2つ以上の会社が合併によりその当事会社全てを消滅させ、その権利・義務の全てを新しく設立した会社に承継させる合併のことです。
例えば、既存の法人であるA社とB社が新設合併を行うと、A社とB社は消滅(解散)し、A社の権利・義務の全てとB社の権利・義務の全ては、新しく設立したX社がその全てを承継することになります。
このときに、消滅法人が労働者派遣事業の許可を持っており、合併により新たに設立される法人(以下「新設法人」といいます)が、引き続き労働者派遣事業を行おうとする場合は、新規で許可申請をすることが必要です。
この場合、(1)吸収合併①と同様の手続きにより事前に許可申請を行うことになりますが、申請の時点においては新設法人はまだ設立されておらず主体がありません。そこで、特例的に合併後の予定に基づいて申請書等を記載し、その上で新設法人設立後、予定どおり設立された旨を報告する取扱いになっています。
なお、すべての消滅法人が合併前に許可を受けており、かつ、その消滅法人の事業所において、合併後に新設法人が引き続き労働者派遣事業を行うときでも、(1)吸収合併③のような特例はなく、財産的基礎に関する許可基準については、通常どおりとなりますのでご注意ください。
(3)吸収分割
吸収分割とは、会社がその事業に関して有する権利・義務の全部または一部を既存の別の会社に承継させる会社分割の方法です。
すでに存在する他の法人に、分割する法人(以下「分割法人」といいます)の営業を承継させることになりますが、この場合において、吸収分割により承継を受けた法人(以下「分割承継法人」といいます)が、引き続き労働者派遣事業を行おうとする場合は、(1)吸収合併に準じた手続きを行うことが必要です。
すなわち、分割前に分割承継法人が労働者派遣事業の許可を受けていない場合で、分割後に労働者派遣事業を行う場合は、新規での許可申請が必要です。一方、分割前に分割承継法人が許可を受けている場合は、新規での許可申請を行う必要はありませんが、必要に応じて、法人の名称等の変更届や、事業所新設に係る届出を行うことになります。
なお、分割法人についても事業所の数等に変更があったときは、変更の届出または事業の廃止の届出を行うことが必要です。
(4)新設分割
新設分割とは、会社がその事業に関して有する権利・義務の全部または一部を新たに設立した会社に承継させる会社分割の方法です。
この方法によれば、子会社を設立し、その会社が行っている特定の事業を独立させて、分社化することができます。
分割により新たに創設した法人(以下「分割新設法人」といいます)に、分割法人の営業を承継させることになりますが、このときに分割法人が労働者派遣事業の許可を有しているときであっても、分割新設法人が労働者派遣事業を行う場合は新規許可が必要となります。その際の手続きは、(2)新設合併に準じて取り扱うことになっております。
なお、分割法人についても事業所の数等に変更があったときは、変更の届出または事業の廃止の届出を行うことが必要です。
以上、法人が合併や会社分割を行うに際し、権利義務を承継する法人(存続法人、新設法人、分割承継法人、分割新設法人)が、組織再編後に労働者派遣事業を行う場合の手続きについてみてきました。
いずれの手続きによる場合でも、許可の期間に空白が生じることになれば、事業の運営、派遣労働者の就業に大きな支障が生じます。組織再編を計画する段階で、派遣事業許可の申請に要する期間を加味したスケジュールの組み立てをお願いしたいと思います。