労働者派遣事業の許可申請 財産的基礎要件確認の際の注意点

労働者派遣事業の許可取得に関するお問い合わせを頂く際、最も多いご質問が許可要件に関するものです。

労働者派遣事業の許可要件は、厚生労働省が発行する「許可・更新等手続マニュアル」では、9ページにも渡って記載されており、その内容は多岐に渡っています。どれも重要な要件ですが、申請準備を始めるにあたって特に重要なものが、「派遣元責任者に関する要件」、「財産的基礎に関する要件」、「事業所に関する要件」の3つです。

今回は、この3つのうちで「財産的基礎に関する要件」について、確認する際の注意点を実際の具体例を挙げて見ていきたいと思います。

 

(1)財産的基礎の要件

一般的には「資産要件」と呼ばれることが多いですが、正式には「財産的基礎の要件」といいます。「許可・更新申請手続マニュアル」では、財産的基礎の要件について次のとおり記載されています。

 

① 資産(繰延資産及び営業権を除く。)の総額から負債の総額を控除した額(以下「基準資産額」という。)が 2,000 万円に当該事業主が労働者派遣事業を行う(ことを予定する)事業所の数を乗じた額以上であること。
② ①の基準資産額が、負債の総額の7分の1以上であること
③ 事業資金として自己名義の現金・預金の額が 1,500 万円に当該事業主が労働者派遣事業を行う(ことを予定する)事業所の数を乗じた額以上であること。
 

以上、3つをすべて満たす必要があり、1つでもクリアできていないと財産的基礎の要件を満たしていないという判断になります。

文字が並んでいると、ピンときませんので数式で改めて記載しますと、次のとおりとなります。

 

①資産(繰延資産及び営業権を除く)-負債≧2000 万円×派遣元事業所数

②資産(繰延資産及び営業権を除く)-負債≧負債×1/7

③自己名義の現金・預金の額≧1500 万円×派遣元事業所数

 

 

原則として、最近の事業年度(直近で終了した事業年度)における貸借対照表により判断されることになります。

「労働者派遣の許可申請には、2,000万円必要」までは確認したうえで、お問い合わせを頂くことが多いので、「資産要件は満たしていますか?」とご質問させて頂くと、

「純資産で2,000万円ですよね。大丈夫ですよ」とお答えを頂くことがあります。しかし、いざ貸借対照表を確認させて頂くと、満たしていないことが多くあります。

貸借対照表の「純資産合計」の額は、2,000万円以上あっても、労働者派遣の許可申請にあたっては、財産的基礎の要件を満たせないケースがあります。以下、事例をもとに検証していくことにします。

 

 

(2)ケース別財産的基礎の要件確認

 

ケース① 自己名義の現金・預金

まずは、こちらの貸借対照表をご覧ください。

 

 

資産から負債を引いた額、純資産合計は、4,000万円ありますので一見要件を満たしているように見えます。しかしながらこの貸借対照表は、(1)財産的基礎の要件「③自己名義の現金・預金の額≧1500 万円×派遣元事業所数」を満たしていません。

 

「自己名義の現金・預金」とは、「現金」のほかに普通預金、定期預金、固定性預金などの勘定科目の合計ですが、このケースでは全てを合計しても1,400万円となり要件をクリアすることができません

 

 

ケース② 繰延資産及び営業権

続いてのケースです。

 

 

この貸借対照表では純資産合計が2,100万円ありますし、現金・預金の額も1,700万円計上されていますので、ケース①でクリアできなかった自己名義の現金・預金の額が1,500万円以上の要件もクリアできています。しかしながら、この貸借対照表も要件を満たしていません。

ポイントは、(1)財産的基礎の要件「①資産(繰延資産及び営業権を除く)-負債≧2000 万円×派遣元事業所数」の括弧内の部分です。

繰延資産は、貸借対照表上では資産の部に計上されるものの、労働者派遣事業の許可要件を判断するにあたっては、資産から控除して計算する必要があります。

 

このケースでは、資産(71,000,000円)-繰延資産(2,000,000円)-負債(50,000,000円)=19,000,000円となり、財産的基礎の要件をクリアすることができません

 

 

ケース③ 負債の額との関係

続いてが、今回取り上げる最後のケースとなります。

 

 

この貸借対照表では、自己名義の現金・預金の額(5,000万円)、資産-負債の額(2,000万円)、ともに要件を満たしています。

しかし今回のポイントは、(1)財産的基礎の要件「②資産(繰延資産及び営業権を除く)-負債≧負債×1/7」です。

すなわち、資産(繰延資産及び営業権を除く)から負債を引いた金額(基準資産額)が、負債の総額の7分の1以上である必要があります。

 

このケースでは、基準資産額2,000万円。一方、負債額の7分の1は2,142万8571円となり、基準資産額がこの金額以上となることができず、要件をクリアできないことになります

 

 

以上、実務上ありがちな財産的基礎の要件を満たせない3つのケースについて取り上げさせて頂きました。財産的基礎の要件がクリアできていない場合、その要件を満たすための準備に多くの時間を要することにもなります。

労働者派遣事業の許可取得を計画される際には、できるだけ早い段階において、社会保険労務士事務所または管轄の労働局に確認をして頂くことをお勧めいたします。

 

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