「事業所の使用権を証する書類」の注意点

(1)事業所の使用権を証する書類の提出

労働者派遣事業、有料職業紹介事業の許可申請をする際に共通して提出が必要な書類に「事業所の使用権を証する書類」があります。

これから許可を取得して事業を始めようとする事業所が、実は何の権利もなく使用している建物や事務所だとしたら、大変なトラブルとなることは必至です。そこで、許可申請の際には、その使用権原についての書類を提出して、チェックを受けることになっています。

 

各労働局がホームページ等に掲載している提出書類のリストでは、その具体的な書類として概ね次のように記載されています。

 

・申請者の所有の場合:不動産の登記事項証明書(建物分)
・他人の所有の場合:不動産賃貸借(使用貸借)契約書
・転貸借の場合:原契約書、転貸借契約書、所有者の承諾書

 

非常にシンプルです。

ケースに応じて、上記の書類を提出すれば問題ありません。

何の問題もないはずですが、その提出された書類の内容によって、許可申請において大きな障害となるケースがあります。そこで、今回のコラムでは、実務上で起こりがちなケースについて取り上げてみたいと思います。

 

(2)ケース別「事業所の使用権を証する書面」の落とし穴

 

ケース① 建物の所有者が代表者名義

申請する事業所の使用権についてお尋ねすると、「自社物件ですよ」という回答があったため登記事項証明書を確認したところ、実際には会社の代表者名義になっていることがあります。この場合、個人と法人は別人格のため、「他人所有」の事業所ということになります。

 

この場合、必要書類は不動産の登記事項証明書ではなく、所有者である代表者と申請会社とで締結された賃貸借(使用貸借)契約書になります。ちなみに使用貸借とは、不動産等を無償で貸し付ける契約をいい、今回のケースのように会社とその経営者で結ばれることが多く、契約書が作成されていないことも多いので注意が必要です。

また、宅地建物取引業者などが仲介しない形で作成された賃貸契約書等の場合は、別途、登記事項証明書の提出も同時に求められることがあります。

 

ケース② 建物が未登記

不動産登記法第47条第1項では「新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に、表題登記を申請しなければならない。」と定められているため、建物の表題登記は義務となっております。

違反すると罰則(10万円以下の過料)も定められているので「未登記建物などないのでは?」と思われるかもしれませんが、古い建物を中心に結構の頻度で出会います。当然ながら登記事項証明書を提出することはできません。

 

この場合、別の書類で権利関係を証明する必要がありますが、実務的には「土地・家屋課税台帳」の写しを提出することで、使用権を証する書面とすることができる可能性があります。「土地・家屋課税台帳」は、市町村が作成するもので、建物などの所在、所有者、評価額などを登録した帳簿です(名称は自治体により異なることがあります)。未登記の建物であっても固定資産税の納税義務がありますので、登記の有無とは無関係に自治体が調査し作成しています。各自治体にて閲覧、写しの交付請求ができますので、ホームページ等でご確認下さい。

 

ケース③ 賃貸借(使用貸借)契約の借主が申請者以外

賃貸借契約の借主が親会社や関連会社など、許可申請者とは別の名義になっている場合、その賃貸借契約書は使用権を証する書面とは認められません。当然と言えば当然ですが、代表者が同じである複数の会社が同じ事務所を利用しており、賃貸借契約はそのうち一つの会社が借主となって契約している。そして、建物オーナーもそのことを容認している。そういったケースは意外と多いように見受けられます。

この場合は、改めて契約関係を整理し、事務所の使用権の範囲などを明確にした書面での契約が必要です。

 

ちなみに契約関係を整理した結果、転貸借である場合は、転貸借契約を元の借主と許可申請者との間で締結し、建物所有者(貸主)の同意を得る必要があります。この場合に提出する書面は(1)で挙げたとおり、原契約書(元の賃貸借契約書)、転貸借契約書、所有者の承諾書となります。

 

 

また、新規設立法人での許可申請をする場合、賃貸借契約書の借主名義が法人の代表者になっていることが多く見受けられます。これは、法人設立前に賃貸借契約を結ぶ場合、法人は未だ成立しておらず契約の当事者とはなれないので、代表者個人が借主となって契約を結ばざるをえない事情があると考えられます。

しかし、法人と、法人の代表者は別人格のため、このような賃貸借契約書は使用権を証する書面とは認められないのは、ここまで述べてきたとおりです。

 

いずれの場合にしても、賃貸借契約の名義変更や再契約は、一般的に時間がかかる傾向にあります。必ず早い段階で確認し、不安がある場合は専門家、労働局等にご相談が必要です。

 

ケース④ 賃貸借契約書記載の「使用目的」が不適切

申請者所有の場合は問題となりませんが、賃貸借(使用貸借)契約の場合は契約書の「使用目的」が重要です。結論から言いますと、労働者派遣事業、職業紹介事業の許可申請をするにあたって最も適切な記載は「事務所」です。

「事務所」であれば、広く事業用として使用できることが明確なので、労働者派遣事業、職業紹介事業に使用できることが確実に判断できます。

一方、「住居」となっている場合や、「運送事業」など事業を限定して定めている場合は、使用権を証する書面とは認められませんので、ご注意下さい。

 

ケース⑤ 賃貸借(使用貸借)期間が不適切

賃貸借(使用貸借)の期間が、申請時において満了している場合は使用権を証する書面として認められません。これも当然と言えば当然ですが、意外と見受けられます。長年事業を営んでいて、信頼関係がある場合ほど、放置してしまっていることもあるかもしれません。ただし、自動更新条項がある場合は問題ありません。

 

以上、今回のブログでは、事務所の使用権を証する書類について、認められないケースとその対処例を取り上げさせて頂きました。労働者派遣事業や有料職業紹介事業の許可基準の中で、事業所に関する要件はとても重要な項目です。その大きな判断材料となるものが、事務所の使用権を証する書面でもあるので、許可申請をお考えの事業主様は早めに専門家等にご相談ください。

 

 

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