労使協定のイメージ最新版が公表されました!

毎年夏の終わり、翌年4月1日以降に適用される「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」いわゆる一般賃金が公表され、年明け2月頃に「労使協定のイメージ」最新版が公表。もはや季節の風物詩のように、そんな流れが定着してきました。

今年も2月7日、厚生労働省ホームページにて、労使協定のイメージ最新版が公表されました。そこで今回のコラムでは前回版との比較を中心に見ていきたいと思います。

 

労使協定のイメージ 最新版(PDF

https://www.mhlw.go.jp/content/001204263.pdf

 

労使協定のイメージ 最新版(Word

https://www.mhlw.go.jp/content/001204264.docx

 

※令和6年2月7日公表

 

(1)労働者派遣法第30条の4第1項の規定に基づく労使協定

 今回も少しおさらいしますと、令和2年4月1日施行の改正労働者派遣法では、派遣労働者にも「同一労働同一賃金」により不合理な待遇差の是正が求められることとなりました。

 

この派遣労働者の同一労働同一賃金を実現する方法として、「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」のいずれかの方式により派遣労働者の待遇を確保することが義務付けられました。そして2つの方式のうち、「労使協定方式」を選択した場合、使用者と労働者過半数代表者等とが締結した「労使協定」によりその待遇が決定されます。その「労使協定」が今回のコラムのテーマ「労働者派遣法第30条の4第1項の規定に基づく労使協定」となります。

 

ところで労使協定というと、36協定と混同しがちですが全く別物ですのでご注意ください。

労働者派遣の許可を取得し、派遣業務を始めるにあたって、

「労使協定?36協定ですよね。ちゃんと労基署にも提出しているから大丈夫!」

というのは誤りです。

もちろん、派遣業務においても時間外労働・休日労働を行う場合は、派遣元において36協定を締結することは必要です。

 

しかし36協定と労働者派遣法第30条の4第1項の規定に基づく労使協定は異なります。「派遣先均等・均衡方式」を選択する場合は除きますが、派遣法に基づき適切に作成された労使協定を労使間で適切に締結することが必要です。

 

(2)労使協定のイメージ最新版

 結論から言いますと、協定書本文において大きな変更点、追加された条文はありません。ただ、注釈において追加された文言などがあるため、その点を中心に検討していきたいと思います。

 

①労使協定前文

〈前回版〉

「○○人材サービス株式会社(以下「甲」という。)と○○人材サービス労働組合(以下「乙」

という。)は、労働者派遣法第 30 条の4第1項の規定に関し、次のとおり協定する。」

 

〈最新版〉

「○○人材サービス株式会社(以下「甲」という。)と労働者の過半数で組織する労働組合○○人材サービス労働組合(以下「乙」という。)は、労働者派遣法第30条の4第1項の規定に関し、次のとおり協定する。」

 

最新版では、下線部分の「労働者の過半数で組織する労働組合」という文言が追加されたことに加えて、さらに次の2つの記載例が追加されました。

 

【労働者過半数代表者と締結する場合の記載例】

「○○人材サービス株式会社(以下「甲」という。)と○○人材サービス株式会社の労働者の過半数を代表する者(以下「乙」という。)は、労働者派遣法第30条の4第1項の規定に関し、次のとおり協定する。」

 

【支店ごとに労働者過半数代表者と締結する場合の記載例】

「○○人材サービス株式会社○○支店(以下「甲」という。)と○○人材サービス株式会社○○支店の労働者の過半数を代表する者(以下「乙」という。)は、労働者派遣法第30条の4第1項の規定に関し、次のとおり協定する。」

 

最新版では、これらの記載例を示しつつ注釈において、労働者の過半数で組織する労働組合(過半数組合)の要件を次のように記載しています。

 

「各事業所に使用されるすべての労働者の過半数で組織する組合であり、雇用形態にかかわらず事業所で雇用するすべての労働者(直接雇用の派遣労働者も含む)の過半数で組織する労働組合でなければならない。」

 

また、過半数組合がない場合は労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)と協定を結ぶことになりますが、その過半数代表者は次のいずれにも該当する者でなければならないと記載しています。

 

・雇用形態にかかわらず事業所で雇用するすべての労働者(直接雇用の派遣労働者も含む)の過半数を代表していること。

・労使協定を締結する者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の民主的な方法による手続きにより選出された者であって、派遣元事業主の意向に基づき選出された者でないこと。

・労働基準法第41条第2項に規定する管理監督者でないこと。

 

そして、過半数代表者の選任の過程における注意点として、次の文章で締めくくられています。

「労働者に対してメールで通知を行い、そのメールに対する返信のない人を信任(賛成)したものとみなす方法は、一般的には、労働者の過半数が選任を支持していることが必ずしも明確にならないものと考えられる。」

 

前回版まで前文は、2行でシンプルに記載されており、注釈もなく、すぐに本文に入っていました。ところが最新版では記載例3パターンに加えて、かなり長尺の注釈がつきました。

これはあくまで推測ですが、これまでの定期調査等において、労使協定をチェックするなか、協定書の内容以前の締結の段階において、かなりの不備が発見されたのではないかと考えます。

今年新たに締結する際には、選任過程から十分注意して進めて頂きたいと思います。

 

ただし、最新版に記載の注釈は、これまで業務取扱要領や他のリーフレット等で周知されている内容です。特に過半数代表者の選任に関する注意点は、以前このコラムでも取り上げています。詳しくお知りになりたい方は、こちらもご覧ください。

 

過半数代表者の選出は適切にされていますか?~派遣労働者の「同一労働同一賃金」~

https://www.hakengyou.com/post-3166/

 

②第3条(賃金の決定方法)

「対象従業員の基本給、賞与及び○○手当の比較対象となる「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」は、次の各号に掲げる条件を満たした別表1の「2」のとおりとする。」

 

労使協定のイメージ第3条本文に変更はありませんでしたが、次の注釈が設けられました。

 

「※一般賃金の額が下がったことに伴い待遇を引き下げる場合は、労働条件の不利益変更となり得るものであり、労働条件の不利益変更には、労働契約法上、原則として労使双方の合意が必要であることに留意が必要。」

 

毎年通達により一般賃金の額が示されますが、その額が下がるケースも当然あります。その際に通達では、額が下がった場合でも、見直し前の労使協定に定める額を基礎として、公正な待遇の確保について労使で十分に協議することが望ましいとしています。

 

それでも賃金額が下がることになるケースを想定して通達には、

「実際にこれにより待遇を引き下げる場合は、労働条件の不利益変更となり得るものであり、労働条件の不利益変更には、労働契約法(平成19年法律第128号)上、原則として労使双方の合意が必要であることに留意が必要である。」

と記載されています。

 

このことを受けて、特に今回追加されたものと考えられます。ただ、この記載は前回までの通達にも記載されていたことですので、これも行政調査の中で実際に待遇が引き下げられているケースが多々あったことにより、特に追記されたのではないかと推察します。

 

③第9条(有効期間)

本協定の有効期間は、○○年○月○日から○○年○月○日までの○年間とする。

第2項 (省略)

 

こちらも本文に変更はありませんが、次の注釈が追加されました。

 

「※有効期間の長さについては、その対象となる派遣労働者の待遇の安定性や予見可能性、実務上の対応を考慮すれば長くすることが考えられる一方で、労働者の意思を適正に反映することを考慮すれば短くすることが考えられるため、画一的な基準を設けることとはしていないが、目安として2年以内とすることが望ましい。」

 

ご質問、ご相談を受けることが多い労使協定の有効期間ですが、実務的には1年間としているケースが多いように見受けられます。派遣法的には明確な規定は設けられていませんが、厚生労働省発行の「労働者派遣事業関係業務取扱要領」には、以前から上記注釈と全く同じ目安が示されていましたので、特に新たに設けられたものではありません。

 

④署名または記名・押印欄

 前回までも記載されていた、労働組合があることを前提とした記載に加えて、「労働者過半数代表者と締結する場合の記載例」が追加されています。

 

【労働者過半数代表者と締結する場合の記載例】

○○年

甲 代表取締役    ○○○○ 印

乙 過半数労働者代表 ○○○○ 印

 

さらに押印に関する次の注釈が設けられました。

 

「※令和3年4月以降、行政への届出文書は押印不要であるが、協定書については労使双方で合意・締結されたことを明らかにするため、労働者代表および使用者の署名または記名押印することが望ましい。なお、労使双方において記名または押印不要と規定した場合にはこの限りではない。」

 

実務上は、押印されているケースがほとんどかと思いますが、改めて見解が示されましたので、個別に判断し対応して頂ければと思います。

 

 

以上、今回のコラムは労使協定のイメージ最新版について取り上げました。

検討の冒頭で申し上げた通り、前回版から大きな変更事項はありませんでしたが、もともと複雑な内容ですので、早めにご準備を進めて頂き、余裕を持って令和6年度を迎えられるようにして頂ければ幸いです。

 

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