派遣先による均衡待遇の確保について
2020年4月に施行された改正労働者派遣法により、派遣労働者の均衡待遇推進、処遇改善を図る旨の規定が定められました。
派遣労働者と派遣先の労働者との均衡待遇を推進し、派遣労働者の処遇改善を図る必要があるのは、第一には雇用主である派遣元事業主です。
しかし、実際には派遣先による対応がないと処遇の改善が進みませんので、派遣先においても、教育訓練、福利厚生等に関し、必要な措置を講じる必要があります。そこで、今回のコラムでは、派遣先による「均衡待遇の確保」について取り上げます。
1.教育訓練・能力開発
派遣先は、派遣先の労働者に対して、業務の遂行に必要な能力を養うための教育訓練を行っている場合は、これらの者と同種の業務に従事する派遣労働者に対しても、この派遣労働者を雇用する派遣元事業主からの求めに応じて、その訓練を実施できるように必要な措置を講じる必要があります。ただし、その派遣労働者がすでにその業務に必要な能力を有している場合や、派遣元事業主で同様の訓練を実施することが可能である場合を除きます。
本来、派遣労働者に対しては、雇用主である派遣元事業主が必要な教育訓練を行うべきです。しかし、派遣先の業務に密接に関連した教育訓練については、実際にその業務を行う場所である派遣先で実施することが適当であると考えられますし、また実施可能な訓練も想定しやすいと言えます。実際に、派遣労働者に対する教育訓練が少なくなりがちという実情もあり、派遣先は、派遣元事業主からの求めに応じて、派遣先の労働者と同様の訓練を実施するなど、必要な措置を講じる義務が課されるに至りました。
2.福利厚生施設(給食施設、休憩室、更衣室)
派遣先は、その派遣先に雇用される労働者に対して、利用の機会を与える福利厚生施設のうち、給食施設、休憩室、更衣室については、その指揮命令の下に労働させる派遣労働者に対しても、利用の機会を与える必要があります。
食堂、休憩室、更衣室は、業務を円滑に進めるうえで必要な施設であり、派遣労働者と派遣先の労働者で別の取扱いをすることは適当ではないので、同様の取扱いをする義務が派遣先に課されています。
ちなみに、労働者派遣個別契約書の「便宜供与に関する事項」について、給食施設、休憩室、更衣室は「記載事項」にはなっていません。これは記載がなくても当然付与すべき事項であるとされているため、そのような取扱いになっています。
3.福利厚生(2の施設を除く)
派遣先は、その指揮命令の下に労働させる派遣労働者について、その派遣就業が適正かつ円滑に行われるようにするため、適切な就業環境の維持、診療所等の施設であって現に当該派遣先に雇用される労働者が通常利用しているもの(給食施設、休憩室及び更衣室は除きます)の利用に関する便宜の供与など必要な措置を講ずるよう配慮しなければなりません。
この「診療所等の施設であって現に当該派遣先に雇用される労働者が通常利用しているもの」とは、派遣先が設置及び運営を行い、その雇用する労働者が通常利用している物品販売所、病院、診療所、浴場、理髪室、保育所、図書館、講堂、娯楽室、運動場、体育館、保養施設などの施設のことをいいます。
なお、「配慮義務」というのは、何らかの具体的な措置を講じることを求めるものではありますが、派遣先の労働者と同様な取扱いをすることが困難な場合にまで、その取扱いを求めるものではありません。
例えば、定員の関係で派遣先の労働者と同じ時間帯に診療所を利用することが困難な状況であれば、別の時間帯に設定するなどの措置を行うことにより、配慮義務を尽くしたと認められます。
4.派遣元事業主が行うキャリアアップ措置に係る派遣先の協力
派遣先は、派遣元が派遣労働者のキャリアアップに関する措置等を適切に行えるようにするため、派遣元事業主の求めに応じ、派遣先の労働者に関する情報や、派遣先の指揮命令の下に労働させる派遣労働者の業務の遂行の状況等の情報を派遣元事業主に提供するなど必要な協力をするように配慮しなければなりません。
なお、「業務の遂行の状況」とは、仕事の処理速度や目標の達成度合いに関する情報を指し、派遣先の能力評価の基準や様式により示されたもので問題ありません。派遣元が指定した基準により評価するところまでは求められていません。
ただし、派遣元事業主が派遣労働者の職務能力の評価を行う場合には、この派遣先から提供された情報のみならず、派遣元事業主が自ら収集した情報に基づき評価を行うことが必要です。
また、派遣先は、派遣元事業主が派遣労働者に対し段階的かつ体系的な教育訓練を実施するに当たって、求めがあったときは、派遣元事業主と協議等を行い、派遣労働者が教育訓練を受けられるように可能な限り協力するほか、必要に応じた教育訓練に係る便宜を図るように努めなければなりません。
以上、今回のコラムでは、派遣先の均衡待遇の確保について取り上げました。
派遣先が、派遣元事業主の求めに応じて業務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練を実施しない場合、もしくは福利厚生施設(給食施設、休憩室、更衣室)の利用の機会を与えない場合、厚生労働大臣はその派遣先に対して、派遣法48条第1項の規定による指導・助言を行うことができます。
そして、指導・助言があったにもかかわらず、派遣先がその指導等に従わなかった場合は、是正をするために必要な措置をとるべきことを内容とする勧告に進む可能性があります。
さらに、厚生労働大臣は勧告を行ったにもかかわらず、従わなかった場合には、その旨を公表できることになっています(派遣法第49条の2第2項)。
このようなことにならないように、必要な措置を取ることが必要ですが、なによりも派遣労働者の処遇改善を図ることは、職場環境全体の改善、労働者のモチベーションの向上にもつながり、派遣先においてもメリットがあると考えられます。派遣先においても、派遣労働者の均衡待遇の確保にぜひ積極的に取り組んでいただきたいと思います。