スポットワークの労務管理と労働者派遣

繁忙期への対応や、離職に伴う欠員が発生した際の人材確保の手段として、労働者派遣が多く活用されていることは、これまでのコラムでも取り上げてきました。

しかし、例えば、「急に学生アルバイトが休んだ!今日の午後の3時間だけ誰かに来て欲しい!」といったように、さすがに労働者派遣で対応するのは難しい場面もあるかと思います。

そのようなときに、最近、利用が急増しているのが「スポットワーク」です。事業者によっては「スキマバイト」や「単発バイト」と呼んでおり、テレビCMなどが日々流れていますので、利用したことはなくても、聞いたことがある方がほとんどではないでしょうか。

 

そこで、今回のコラムでは、この「スポットワーク」について、労働者派遣との違い、労務管理の注意点について取り上げてみたいと思います。

 

なお、スポットワークには、様々な形態がありますが、今回のコラムでは、スポットワークの雇用仲介を行う事業者(以下「スポットワーク仲介事業者」といいます)が提供する雇用仲介アプリを利用して、マッチングや賃金の立替払を行う形態を対象とします。

 

1.スポットワークと労働者派遣の比較

(1)スポットワーク

スポットワークとは、数時間単位や1日だけなど、短時間・単発で働く雇用形態を指します。

スポットワークは、スポットワーク仲介事業者が提供するアプリ等を利用しますが、労働契約は事業主とスポットワーカーが直接締結することになり、労働基準法を守る義務は、労働契約を締結した事業主に生じます。決して、スポットワーカーとスポットワーク仲介事業者が労働契約を結ぶものではありません。

 

 

繰り返しになりますが、労働契約は人材を募集している事業主とスポットワーカーとが直接締結し、給与支払者も同じ事業主となります。事務手続き上、スポットワーク仲介事業者から給与が振り込まれることがありますが、これはあくまで立替え払いであり、給与支払者は就業先の事業主です。

活用場面としては、繁忙期の補助、突発的な欠員への対応が考えられます。業種としては、小売業、飲食業、物流業などでの活躍が期待できます。

一方で、高度な専門知識や資格が必要な業種、継続性があり長期的な関係性を築くことが必要な業種には、向いていないと思われます。

 

なお、スポットワーク仲介事業は、有料職業紹介事業の許可事業者がその枠組みの中で運営されることが多いので、当然ながら有料職業紹介事業において取り扱うことができない職業については、スポットワーク仲介もできません。

具体的には、港湾運送業務と建設業務が該当しますので、それらの業務へのスポットワーク仲介はできません。

 

(2)労働者派遣

労働者派遣とは、派遣元事業主が自己の雇用する労働者を、派遣先の指揮命令を受けて、この派遣先のための労働に従事させることをいいます。

 

 

 

労働者派遣は、雇用する者と労働者に指揮命令する者が別という特殊な雇用形態になり、これに該当する場合、労働者派遣法の適用を受けますので、そのルールに則った運用が必要となります。

活用が期待される場面としては、繁忙期や突発的な人材不足に対応できる点はスポットワークと同様ですが、スポットワークと比較すると、それよりは長期的な人材の確保や、より専門的なスキルを必要とする場合に適していると考えられます。

 

また、スポットワークと類似した働き方として、「日雇い派遣」という形態がありますが、現在この働き方は原則禁止されています。

派遣法は、「日々又は30日以内の期間を定めて雇用する労働者」を日雇労働者と定義し、このような労働者の派遣を禁止しています。ただし、以下の場合は例外的に日雇労働者として派遣することを認めています。

 

①日雇労働者の適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがないと認められる業務に派遣する場合

具体的には、労働者派遣法施行令第4条第1項に定められており、情報処理システム開発、機械設計、研究開発など19種類の業務が規定されています。これらの業務に該当する場合は、日雇派遣が可能です。

 

②雇用機会の確保が特に困難であると認められる労働者の雇用の継続等を図るために必要であると認められる場合

具体的には次の場合です。

60歳以上の者

・雇用保険の適用を受けない学生(いわゆる昼間学生)

・生業収入が500万円以上の者(副業)

・生計を一にする配偶者等の収入により生計を維持する者であり、世帯収入の額が500万円以上(主たる生計者以外の者)

 

2.「スポットワーク」の労務管理

(1)労働契約締結時の注意点

①労働契約の成立時期

労働契約は、労働者が事業者に使用されて労働し、事業主がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者および事業主が合意することによって成立します。

 

労働契約の成立時期については個別の具体的な状況によりますが、原則は労働契約の成立をもって労働関係法令が適用されることになるので、労使双方で成立時期の認識を共有した上で、労働契約を締結することが求められます。

この点、スポットワークでは、アプリを用いて、事業主が掲載した求人にスポットワーカーが応募し、面接等を経ることなく、短時間にその求人と応募がマッチングすることが一般的ですので、労働契約の成立時期がいつになるのかが問題となっていました。

この点について、厚生労働省は公表されたリーフレットに次のように記載しています。

 

「面接等を経ることなく先着順で就労が決定する求人では、別途特段の合意がなければ、事業主が掲載した求人にスポットワーカーが応募した時点で労使双方の合意があったものとして労働契約が成立するものと一般的には考えられます。」

以前は、一部のスポットワーク仲介事業者において、労働契約の成立時期をスポットワーカーが就業場所に到着して、スマートフォンで二次元コードを読み取ってチェックインした時点を労働契約成立としていました。そのため、勤務開始直前まで、事業主側からのキャンセルが可能になるため、労働者の保護が不十分になる傾向がありました。そのような状況を踏まえて、上記の見解を示したものと思われます。

 

また、労働契約成立後のキャンセルについては、その事由や期限をあらかじめ示した契約(解約権留保付労働契約)を締結する場合には、その事由が合理的であることや、労働契約法第3条第1項に定める労使対等の原則の趣旨を踏まえ、スポットワーカーにのみ不利にならないように留意する必要があります。

事業主の都合で仕事を直前にキャンセルすることは、スポットワーカーの就労のための準備を無駄にし、その日の別の就労機会を見つける時間的余裕がない状態にするおそれがあり、労働者保護の観点からは不適切であると考えられます。そのため、事業主からのキャンセルの期限については、別の就労機会を見つける時間的余裕に配慮した設定が求められます。

 

なお、一旦確定した労働日や労働時間等の変更は、労働条件の変更に該当しますので、事業主とスポットワーク双方の合意が必要となります。

 

②労働基準法等の遵守

労働契約が成立すると、事業主には労働基準法を守る義務が生じますので、予定された就業開始前に労働条件を明示することが必要です。

当然、スポットワーカーにも明示する必要があります。明示しなかった場合には、労働基準法違反となります。

労働条件を書面の交付などの方法で明示することは事業主の義務でありますし、未然にトラブルを回避することにもつながりますので、確実に行って下さい。

 

なお、労働条件通知書の交付をスポットワーク仲介事業者が代行してくれる場合もあるかと思います。ただし、あくまで交付は事業主の義務なので、きちんと交付されているか、その内容は適切であるか、確実に確認する必要があります。もし、スポットワーク仲介事業者から交付されていないことが分かった場合は、事業主から交付するようにして下さい。

 

(2)休業させる場合の注意点

労働契約成立後に、事業主の都合で丸1日の休業、もしくは仕事の早上がりをさせることになった場合は、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」となりますので、スポットワーカーに対し、所定の支払日までに休業手当を支払う必要があります。

 

なお、休業手当の代わりに、その日に約束した賃金を全額支払うことでも問題ありません。

ただし、休業手当を支払う場合であっても、それが事業主自身の故意・過失等により労働者を休業させることになった場合には、民法の規定により賃金を全額(休業手当をすでに支払っている場合には、その手当を控除した額)を支払う必要があります。(民法第536条第2項)

 

(3)賃金・労働時間に関する注意点

実際の労働時間に対する賃金を労働条件通知書に記載された所定支払日までに支払わなければ労働基準法違反になります。これは、スポットワークであっても変わりません。以下、主な注意点を項目ごとに記載します。

 

①業務に必要な準備行為等

事業主の指示により、就業を命じた業務に必要な準備行為(制服への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(掃除等)を就業先内で行った時間なども労働時間に当たります。求人の際には、これら着替え等の時間も含めて始業・終業時刻を設定することが必要です。

予定した始業時刻より前に、事業主の指示により、就業を命じた業務に必要な準備行為(制服への着替え等)などが発生した場合は、その時間も労働時間として取り扱う必要があります。

なお、事業主の指示により待機を命じた時間も労働時間に該当します。待機後の事由にかかわらず、事業主は待機時間に対する賃金を支払わなければなりません。

 

②一方的な賃金の減額

賃金について、労働条件通知書などで示した額を一方的に減額したり、「別途支払う」としていた交通費を支払わない場合には、労働基準法違反となりますので十分ご注意ください。

 

③実際の労働時間の速やかな確定

スポットワーカーから、予定していた労働時間と異なる実際の労働時間による修正の承認申請がなされた場合には、事業主は、賃金はスポットワーカーの生活の糧であることを踏まえ、予定された労働時間に基づき勤務した賃金は遅滞なく支払うとともに、予定の労働時間と異なる時間については、速やかに確認し、労働時間を確定させてください。

 

(4)その他の注意点

①通勤途中、または仕事中のケガ

スポットワーカーが通勤の途中、または仕事中にケガをした場合、スポットワーカーは就労先の事業について成立する保険関係に基づき労災保険給付を受けることができます。

労働契約の成立時期が、求人にスポットワーカーが応募した時点との厚生労働省の見解が示されたことで、この点も明確になりました。

 

②労働災害防止対策

スポットワーカーの労働災害防止のため、労働安全衛生法等に基づく各種措置(雇入れ時等における機械等の危険性や安全装置の取扱方法等の教育の実施等)を講じる必要があります。

スポットワーカーであっても、労働者であることには変わりありませんので、事業主の義務として雇い入れ時の安全衛生教育は必要です。むしろ、スポットワーカーは初めての職場である可能性が高いので、より入念な教育が必要といえます。

 

③ハラスメント対策

スポットワーカーに対するパワハラやセクハラなどのハラスメント防止のため、労働施策総合推進法等に基づく各種措置を講じる必要があります。具体的には、相談窓口の設置や行為者に対する措置内容の周知などです。

 

④無断欠勤等を利用としたサービス利用の停止

スポットワークは気軽に応募ができる反面、無断欠勤が発生するケースが多いことは事実です。しかし、無断欠勤などを理由として、アプリのサービス利用を無期限停止とする措置は、有料職業紹介事業の枠組みで運営するスポットワーク仲介事業の場合は、職業安定法違反となる可能性があります。

 

3.まとめ

人手不足が叫ばれる中、人材の確保が最重要課題のひとつとされている今、スポットワークや労働者派遣の活用は有効な選択肢といえます。

しかし、その法的性質や実務対応においては大きな違いがあります。これらを正しく理解し運用しなければ、法令違反や労使トラブルを招く恐れがあり、行政指導、是正勧告を受ける可能性もあります。導入を検討される際、不安な点などありましたら、社会保険労務士、労働局、労働基準監督署等へご相談ください。

 

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