職業紹介責任者の専任規制の見直し(複数事業所の兼任)と実務上のポイント

転職に悩む人と、その不安や悩みにやさしく寄り添う転職エージェント。そんな光景が描かれたテレビCMWeb動画を見ることも多いのではないでしょうか。これらの多くは有料職業紹介事業を営む企業のCMです。

 

近年、深刻化する人材不足や働き方の多様化を背景に、この有料職業紹介事業の役割がますます重要性を増しているといえます。実際、ここ数年、私どもの事務所にも有料職業紹介事業に関するお問い合わせやご依頼が増加しています。


こうした状況の中で、その制度面でも実態に即した見直しが進められており、その一つが職業紹介責任者の専任規制の見直しによる複数事業所の兼任です。

そこで、今回のコラムでは、この見直しの内容や背景を整理するとともに、実務上のポイントについて取り上げてみたいと思います。

 

1.職業紹介責任者の役割

 有料職業紹介事業において、職業紹介責任者は単に形式的な設置義務があるわけではなく、事業運営の中核を担う存在です。その業務は、職業紹介に関し、労働関係法令等に関する最新の情報を把握しつつ、次の事項について統括管理する役割があります。

 

①求人者や求職者から申出を受けた苦情の処理。

②求人者の情報(職業紹介に関するものに限ります。)および求職者の個人情報の適切な管理。

③求人および求職の申込みの受理、求人者および求職者に対する助言、指導その他有料の職業紹介事業の業務の運営および改善。

④職業安定機関との連絡調整。

 

特に、求職者保護の観点からは、トラブルの未然防止や迅速な対応が求められるので、実務に精通した責任者の存在は不可欠といえます。

 

さらに、社内で職業紹介の業務に従事する従業員に対して、職業紹介の適正な遂行のために必要な教育を行うのも職業紹介責任者の重要な役割の一つです。

 

2.従来の「専任規制」の内容とその課題

 職業紹介事業者は、事業所ごとにその事業所に専属の職業紹介責任者を自己の雇用する労働者の中から選任することとされています。(ただし、有料職業紹介事業者自身(法人である場合はその役員)を職業紹介責任者とすることは問題ありません。)

 

選任すべき人数については、その事業所において職業紹介に係る業務に従事する者の数が50人以下のときは1人以上、50人を超え100人以下のときは2人以上、100人を超えるときは50人を超えるごとに1人を加えた数以上の者を選任する必要があります。

 

この事業所ごとに専属の職業紹介責任者を選任する義務、いわゆる「専任規制」は、その責任の所在を明確にし、適正な事業運営を担保するために設けられたものです。

しかしながら、実務の現場では、小規模な職業紹介事業者にとっては人員確保の負担が大きく柔軟な人員配置ができない、地方を含む新たな事業所を開設する際の障壁となっているなど、多くの課題が指摘されていました。

 

また、デジタル技術の進歩がめざましい中、物理的な場所の「専任」にこだわる必要があるのかと言った声もあり、見直す方向で検討が進められていました。

 

3.専任規制見直しによる職業紹介責任者兼任の概要

 このような背景の中、令和8年4月1日より職業紹介責任者の専任規制の見直しにより、事業所を新設するにあたっては、職業紹介責任者が複数の事務所の兼務を可能とする規定が設けられ、一定の柔軟化が図られました。

ただし、職業紹介サービスの質の確保を前提としたうえで、デジタル技術を徹底活用すること等により、一定の要件を満たす場合には、職業紹介責任者に複数の事務所を兼任させることを可能とするものとなっております。

その概要は、次のとおりです。

 

【職業紹介責任者兼任の概要】

①有料職業紹介事業者が事務所を新設する場合は、当該事業所(以下「新設事業所」といいます)を新設する事業年度の翌事業年度末までの間、当該有料職業紹介事業者が有料の職業紹介事業を行っている他の事業所の職業紹介責任者(職業紹介責任者として実務に従事した期間が通算して10年以上である者に限ります)を新設事業所の職業紹介責任者として兼任させることができる。

②当該他の事業所(以下「既存事業所」といいます)、または新設事業所において職業紹介に係る業務に従事する者の合計の人数は、職業紹介責任者1人につき50人以下とする。

③既存事業所または新設事業所において、職業紹介に係る業務に従事する者の数が50人を超えるときは、当該職業紹介に係る業務に従事する者の数が50人を超える事業所の職業紹介責任者のうち少なくとも1人以上は、当該事業所に専属の職業紹介責任者とする。

 

少し分かりにくいので、図式化します。

 

 

 なお、職業紹介責任者の兼任開始後に、事業所における事業年度を変更した場合でも、兼任することができる期間に変更はなく、届出時における事業年度により定まります。

また、事業所を移転する場合は新設には当たらないので、事業所移転に伴う職業紹介責任者の兼任は認められません。

 

4.想定される職業紹介責任者の兼任方法

 ケース① 複数の職業紹介責任者が、1の新設事業所を兼任する

A事業所(従事者30人)とB事業所(従事者30人)の2つの既存の事業所がある状況で、1つの事業所(従事者20人)を新設し、A事業所とB事業所それぞれの職業紹介責任者が新設事業所の責任者を兼任する。

 

 

ケース② 複数の新設事務所を兼任する

 1つの既存の事業所(従事者30人)がある状況で、新設A事業所(従事者10人)と新設B事業所(従事者10人)の2つの事業所を新設し、既存の事業所の職業紹介責任者1名が3つの事業所の責任者を兼任する。

 

 

5.職業紹介責任者を兼任させる場合の留意事項

 職業紹介責任者を兼任させる場合、適正な事業運営が行われるように、兼任する職業紹介責任者が所属する新設事業所、および既存事業所において、次の事項に留意することが必要です。

 

①情報通信技術を活用した統括管理を行うための連携体制の整備

オンライン会議システム等の活用により、職業紹介責任者が遠隔で統括管理できる環境を整えること等の対応が必要です。

 

②必要に応じて実地管理に切り替えることが可能な体制の確保

適切に苦情処理を行うため、職業紹介責任者が必要に応じて兼任する事務所に直接出向き、速やかに対応できるようにすること等の対応が必要です。

 

③統括管理の実施状況の継続的確認及び必要な改善

兼任する職業紹介責任者による統括管理の実施状況を定期的に確認し、トラブルを未然に防ぐために、必要に応じて業務の実施方法の見直しを行うこと等の対応が必要です。

 

④都道府県労働局による指導監督等の実施に当たり職業紹介責任者を兼任させていることによる支障を生じさせないこと

 

なお、職業紹介責任者を兼任させる職業紹介事業者については、以上の①~④までの項目は許可条件にもなっていますので注意が必要です。

 

6.実務への影響と留意点

 今回の専任規制の見直しにより、柔軟な人材配置が可能になり、コスト削減も図ることができメリットが期待できます。特に今後、複数拠点にて業務を展開する場面においては、より効率的な運営が可能になると考えられます。

しかし一方で、兼務化によって責任者の目が行き届かず、法令違反や苦情対応の遅れにつながるリスクもあります。

 

そこで、実務上では、業務管理や報告体制を明確にすること、各拠点の業務状況を可視化できるようにすること、定期的に内部監査を実施すること等が重要といえます。

 

7.まとめ

職業紹介責任者の専任規制の見直しによる責任者の兼任は、柔軟な事業運営が可能となる一方で、より実効的な管理体制を整える必要があるといえます。

また、職業紹介責任者の役割は、もともと重要なものですが、兼務する場合は更にその責任が重くなっているといっても過言ではありません。

 

専任規制の見直し、柔軟化は決して責任の軽減化ではありません。

今一度、自社の体制が適切に機能しているかを点検して頂き、必要に応じて社会保険労務士等の専門家へのご相談もお勧めいたします。

 

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